予備試験 平成30年 民事訴訟法
平成30年・予備試験・民事訴訟法・問題
現代の紛争は二当事者間の単純な紛争は極めて稀であり、潜在的訴訟可能性を含めあらゆる請求定立の可能性を視野に入れながら、法律相談に臨まなければいけません。
民事紛争の解決が終局的には民事訴訟である以上、多数当事者訴訟をマスターしなければ訴訟代理人(民訴法54条)とはいえません。
本問は、多数当事者訴訟を身につけるのに極めて優秀な設問です。本問に全力で取り組んでみてください。
予備試験の問題に挑戦するのに必要な知識や参考判例を掲記するので、予習をしてから、過去問に挑戦してみてください。
【予習事項】(設問1)
- 『リーガルクエスト民事訴訟法』(第4版)548〜552頁
- ねんネコ塾レジュメ【同時審判申出共同訴訟】・【主観的予備的併合】
【予習判例】(設問1)
【予習事項】(設問2)
- 『リーガルクエスト民事訴訟法』(第4版)562〜582頁
- ねんネコ塾レジュメ「訴訟告知」・「主観的追加的併合」
【予習判例】(設問2)
- 最判昭和45年10月22日(民集24巻11号1583頁【百選6版「98」】)
- 最判平成14年1月22日(判時1776号67頁【百選6版「99」】)
- 最判昭和62年7月17日(民集41巻5号1402頁【百選6版「91」】)
重要なことは、予習をした上で、自分で実際に答案を書いてみることです。答練をした上で、下記の「参考解説レジュメ」に進んでください。
【PDF版は、⬇️へスクロール】
【平成30年・予備試験、参考解説レジュメ(設問1)】
令和8年1月7日
令和版「民訴法」初学者用の入門レジュメ(予備試験過去問解説編)
捧 大地
平成30年・予備試験「民訴法」参考解説(設問1)
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【予習事項(設問1)】
・『リーガルクエスト民事訴訟法』(第4版)548〜552頁
・ねんネコ塾レジュメ「同時審判申出共同訴訟」、「主観的予備的併合」
【予習判例(設問1)】
・最判昭和43年3月8日(民集22巻3号551頁〔百選6版「A28」〕)
・最大判昭和43年4月24日(民集22巻4号1043頁〔商法判例百選「30」〕)
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第1 設問1について
1 請求定立・訴訟構成の仕方
まず、Xとしては、①Yに対する請求とZに対する請求を単純併合として請求定立する方法が考えられる。次に、②法41条による同時審判申出共同訴訟を利用する方法、さらに、③主観的(主体的)予備的併合と構成することも考えられる。
2 問題の所在 〜両負けの危険〜
上記①の方法(単純併合)とした場合、弁論分離権(法152条1項)が裁判所の権能であるので、弁論が分離された場合、Yに対する請求では本件絵画の買主がZであると認定されて敗訴し、Zに対する請求では本件絵画の買主がYであると認定されて敗訴するという、いわゆる「両負けの危険」が存する。
そこで、X(の訴訟代理人L1)としては、両負けを防ぐ方法すなわち「弁論の分離がなされない保障のある方法」を採用したい。
3 売買代金の残部(200万円)の請求部分について
本設問のXとしては、本件絵画の買主が「Y又はZ」のどちらかであるとして、確実に、片一方の被告に対する売買代金の残部200万円の支払請求の認容判決を得たい。
⑴ 法41条 〜同時審判申出共同訴訟〜
さて、共同被告に対する請求が「法律上併存し得ない関係にある場合」には、同時審判申出共同訴訟(法41条)を利用することにより、裁判所が「弁論及び裁判〔を〕分離しないでしなければならない」(同条1項)。すなわち統一審判が保障される。これにより、原告は上述の「両負け」の危険を回避することができる。
⑵ 「法律上併存し得ない場合」
「法律上併存し得ない場合」とは、「一方被告に対する請求原因事実が、他方被告においての原告の請求を排斥する抗弁事実に該当する」ことをいう。
本設問の売買代金残部請求部分(金200万円)については、後掲するように「法律上併存し得ない関係にある場合」である。
⑶ 小括
したがって、Xは、本件売買代金残部請求部分については、同時審判申出共同訴訟(法41条)を利用することにより、両負けを防ぐ統一審判を得ることができる。
4 一部既受領部分(100万円)の契約の相手方の確定に関して
次に、本件売買に関係したXの一部既受領部分(100万円)に関して、Z社の代表者であるYが設問文に表れているように誠実な態度ではないので、後日に、100万円部分についても紛争が生じるかもしれない。X(の代理人弁護士であるL1)としては、後日の紛争を防ぐため、この100万円部分に関しても、①買主がYであったのかZであったのか、さらには、②第三者弁済(民法474条1項)であったのかどうか等、が不確定であるので、当事者及び弁済者を確定し、Xの給付保持力を護らなければならない。
そして、本設問においては、Yの上述の態度により、100万円部分についての契約の当事者等を確定する「確認の利益」がXに認められる。
⑴ いかにして両負けを防ぐ統一審判を図るのか
残部請求200万円については、上述のように「法律上併存し得ない場合」であるので、同時審判申出共同訴訟(法41条)により、弁論及び裁判の併合強制ができる。
しかしながら、一部既受領部分については、まず、①訴訟物が異なると解される。そして、②第三者弁済か否かという判断は、明確に「法律上併存し得ない場合」とは断定できないことから、「事実上併存し得ない場合」と判断せざるを得ない。
⑵ 「事実上併存し得ない場合」に裁判所に統一審判を保障させる方法
法41条は、文言として「法律上併存し得ない関係にある場合」と明確に制限をかけている。そして、この制限は、平成8年法109による平成の民訴法改正経緯[1]に照らしても明らかである。同議論の中で、「事実上併存し得ない場合にまで同時審判の保障を拡げることは、その適用範囲を不明確なものにし、適当ではない[2]」とされている。
⑶ 最高裁昭和43年判決以後の主観的予備的併合を適法とした下級審裁判例
ア 判例
判例(最判昭和43年3月8日・民集22巻3号551頁〔百選6版「A28」〕)は、「予備的請求の被告とされた者にとつてはその請求の当否についての裁判がなされるか否かは他人間の訴訟の結果いかんによることとなるわけであって、応訴上著しく不安定、不利益な地位に置かれることになり、原告の保護に偏するものであるから、かかる訴訟形式は許されないものと解するのが相当であり、しかも併合された予備的請求はこれを分離するとそれ自体としては条件付訴として不適法なものになるといわねばならない」と判示した原審の判断に対して、「訴の主観的予備的併合は不適法であつて許されないとする原審の判断は正当であ」ると判示した。
イ 最高裁昭和43年判決以後の主観的予備的併合を適法とした下級審裁判例
さて、最高裁昭和43年判決以後も主観的予備的併合を適法とした下級審裁判例(大阪高判S54.12.13(判タ414号99頁) 、名古屋地判S60.2.14(判時1173号95頁) 、東京高判S47.2.17(判時659号57頁)等)がある。
これらの下級審裁判例(資料後掲)を総合すると、「本設問事案のように、同一人に対し、個人責任を追及する請求とともに株式会社の代表者としての株式会社自体に対する請求を予備的に併合して請求する場合には、同一人が共同被告の訴訟行為を行うのであるから、主観的予備的併合による訴訟形態を許しても、最高裁昭和43年判決が指摘するような被告の訴訟上の地位を不安定、不利益にする弊害は乏しいし、かつ不安定な地位に置かれてもやむを得ない事情が認められるというべきである」と解せられる。
したがって、このような事案においては、主観的予備的併合による訴訟形態を許容してもよく、前記判例に反しないと解せられる。
ウ 小括
以上に述べた通り、本設問事案においては、最高裁昭和43年判決が指摘するような被告の訴訟上の地位の不安定は乏しいし、かつ不安定な地位に置かれてもやむを得ない事情が認められるというべきであるから、主観的予備的併合の形態が認められ、これによりXの両負けの危険を回避できる。
5 主観的予備的併合の「一般論」としての「適法論」について
これについては、拙稿「主観的予備的併合『適法論』」(平成21年1月26日執筆)において論証している。または、その概略を解説したねんネコ塾レジュメ「主観的予備的併合」をご一読頂きたい。
(参考解説、以上)
<あとがき>
本設問の「肝」は、一部既受領部分があることである。これが仮にない場合には、本設問は単に「法律併存し得ない場合」であるから、主観的予備的併合に言及する必要のない事案である。
しかし、この一部既受領部分があるがために、本設問は「事実上併存し得ない場合」になり、法41条では弁論及び裁判の併合強制ができない(統一審判の不可)ために、両負けの危険が法41条の制定(平成8年法109)後である現在であっても存するのである。
したがって、依然として主観的(主体的)予備的併合の有用性・必要性がある。
主観的予備的併合を不適法とする最高裁昭和43年判例が、判例変更がなされていない現状下において、この問題は日本の民事裁判籍に服する全員がその「両負け」の危険に、依然として、直面しているのである。
この「適法論」を論証した拙論文は、日本のすべての裁判官・弁護士諸氏にご一読頂きたいものである。
草々
●本設問:残部請求が「法律上併存し得ない場合」に該当するという判断について●
1 事実概要
事実:Yは、株式会社Zの代表取締役である。
Y(の代理人弁護士L2)の通知書の記載内容:
①本件絵画は「株式会社Zの応接間に掛けるために購入したものであ」ること、及び「そのことについてはXに説明していた」ということ
②「Xに支払済みの代金は株式会社Zの資金によるものであり、かつ、株式会社Z宛ての領収書が発行されていること」
③「名刺は株式会社Zの代表取締役としての名刺であること」との各記載がある。
2 関連条文
商法504条
3 非顕名主義
商事においては「非」顕名主義である。すなわち本設問は、「顕名の有無」という判断基準で場合分けをする事案ではない。
4 商法504条但書の解釈
⑴ 判例
これについては、判例(最大判昭和43年4月24日民集22巻4号1043頁〔商法判例百選「30」〕)がある。
ア 相手方に過失があった場合
相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったことにつき有過失の場合、同判例による商法504条但書の解釈の判示によれば、契約は相手方・本人間に成立する。
イ 相手方に過失がなかった場合
他方で、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったことにつき無過失の場合、同判例によれば、契約は相手方・代理人間に成立する。
ウ 相手方が代理人との法律関係を主張した場合
同判例は、「相手方が代理人との法律関係を主張したときは、本人は、もはや相手方に対し、右本人相手方間の法律関係の存在を主張することはできないものと解すべきである」と判示している。
エ 小括
以上のことをまとめると、相手方が有過失の場合、相手方は本人に対してしか法律関係を主張できない。
これに対して、相手方が無過失の場合は、相手方は本人及び代理人に対しても法律関係を主張できる。ただし、相手方が、代理人に対する法律関係を選択した場合には、本人は、相手方に対して法律関係を主張できない。
⑵ 「法律上併存し得ない場合」か「事実上併存し得ない場合」か
如上に述べた通り、本設問の事案の残部請求部分(200万円)については、相手方の過失の有無を判断ベースとして、「相手方・本人間の法律関係」と「相手方・代理人間の法律関係」は、商法504条但書を根拠として、法律上併存し得ない関係である。
(本項目、以上)
◯参考資料(最高裁昭和43年判決後も主観的予備的併合を適法とした下級審裁判例)◯
【裁判例1】大阪高判S54.12.13(判タ414号99頁)
1 事案
在日韓国人であるYは、頼母子講[3]〔無尽講〕の講元ないし講親をしていた。Xは、本件講に掛金を計480万円支払ったが、〔配当や貸付等〕なんらの金員の交付等を受けることがなかった。
そこでXが、主位的にY個人に対して、予備的にYを本件講の業務執行人として、講金480万円の返還請求をした。
2 判旨
「本件講自体に対する講金返還請求は、Y個人に対する請求の予備的請求としてなされており、主観的予備的請求の性質を帯有するものである。一般に主観的予備的請求は、予備的な被告とされる者の訴訟上の地位を著しく不安定、不利益にするものとして広くこれを許容することはできないが(〔最高裁昭和43年判決〕参照)、本件のように同一人に対し、個人責任を追及する請求とともに組合的講の業務執行人としての講自体に対する請求を予備的に併合して請求することを許しても、前示のような被告の訴訟上の地位を不安定、不利益にする弊害は乏しいからこれを許容して差支えないものと考える。」として、本件の訴訟形態を許容した。
【裁判例2】名古屋地判S60.2.14(判時1173号95頁)
1 事案
X、Y1(15歳9月)、Y2(16歳9月)、を含む7名がシンナー遊びをしていた。その最中に、Xのズボンがシンナーで濡れたことに関して、Y2がこれを尿であると冷やかした。そのことから、Y1がこれを確認するためXのズボンにライターの火を近づけたところ、シンナーに引火してズボンが燃え上がりXが火傷を負った。
Xが、主位的にY1の親権者Y3、Y2の親権者Y4及びY5の三名に対して民法714条に基づき、予備的にY1、Y2の二名に対して民法709条に基づき、損害賠償請求訴訟を提起した。
2 判旨
「本件は、不法行為をなしたY1、Y2がいずれも未成年であって責任能力を有しないとして、その親権者であるY3、Y4及びY5に対し民法714条に基づく損害賠償請求をなし、さらにY1、Y2がいずれも責任能力を有していたと認定される場合を想定して、予備的に右被告両名に対する民法709条に基づく損害賠償請求を併合したものである。ところで、右Y1・Y2両名はいずれも未成年者であって訴訟無能力者であるため、右被告両名の訴訟行為はすべてその法定代理人であるY3ないしY4、Y5が行うものである。このように副位被告らの訴訟行為を主位被告らが行うのであるから、本件においては、副位被告が著しく不利益を受けるものとはいえず、かつ不安定な地位に置かれてもやむを得ない事情が認められるというべきである」として主観的予備的併合を許容した。
【裁判例3】東京高判S47.2.17(高民集25-1-83、判時659号57頁)
1 事案
Xが所有する同一土地甲上には、建物乙、建物丙〔建物丙はもともと建物乙に対して増築して建てられた。〕があり、Y1が建物乙及び丙を占有していた。
Xが、Y1ないしY4を共同被告として、①建物乙につき、乙の所有者がY2、Y3、Y4であるとして、Y1に建物退去及び土地明渡し、Y2ないしY4に建物収去及び土地明渡しを、②建物丙につき、Y1が所有者であるとしてY1を被告として建物収去及び土地明渡しを、③〔追加的請求〕「②」の請求が認められない場合に予備的に、Y2ないしY4が建物丙の所有者であるとして、建物収去及び土地明渡しを、それぞれ請求した。
2 判旨
「ところで主観的予備的訴訟が不適法(〔最高裁昭和43年判決〕)とされる理由は、被告が予備的の立場にあるため不当に不安と不利益を強いられるからであると解される。それ故諸般の事情により請求が主観的予備的に併合されても被告が不当に不利益を受けず不安定な立場に置かれてもやむを得ないと認められる場合には右併合は許されると解すべきであり、このように解することは右判例〔最高裁昭和43年判決〕に反しないものと考える。この観点から本件をみるのに、Xは土地所有権に基づき当初からY1とその余のY2、Y3、Y4ら三名を共同被告として建物退去土地明渡請求訴訟を提起するとともにY1に対し右地〔土地甲〕上にある右建物〔乙〕に隣接する別の建物〔丙〕の所有者であるとしてその収去と土地明渡を請求し、その所有者がY1でなくその余のY2、Y3、Y4ら三名と認定されることある場合を予想してY2、Y3、Y4ら三名に対し予備的に右建物の収去による右土地の明渡を併合したものである。このようにして主観的予備的請求を併合されたY2ら三名は、当初から同一土地の明渡という関連する訴訟の共同被告とされているので、右予備的併合による訴訟の被告とされることによつて別訴を提起されるのと比べて特段の不利益を受け不当に不安定な地位に置かれたと認めるべきではない。それ故このような主観的予備的請求は許されると解するのが相当である。」とした。
(参考資料、以上)
[1] 詳しくは、拙稿「主観的予備的併合『適法論』」で改正経緯を紹介している。
[2] 法務省民事局参事官室編『一問一答新民事訴訟法』(商事法務研究会、1996)59頁
[3] 互助的な金融組合。組合員が一定の掛金を出し、一定の期日に抽籤または入札によって所定の金額を順次に組合員に融通する組織。新村出編『広辞苑』(岩波書店、第六版、2008)
【平成30年・予備試験、参考解説レジュメ(設問2)】
(coming soon……)
【平成30年・予備試験、参考解説レジュメ(設問3)】
(coming soon……)
平成30年の予備試験の問題を学習した後に、拙稿【「主観的予備的併合適法論」(平成21年1月26日執筆)】を(興味のある方は)ご一読頂きたく存じます。
【注記:下記の論文内の「事実上併存し得ない場合」の「例の提示に誤り」がある箇所があります。正確には「令和版のレジュメ」を参照してください。(2025 Autumn 追記)】
