予備試験 令和7年 民事訴訟法
令和7年・予備試験・民事訴訟法・問題
これから、筆者と一緒に「予備試験」の問題に挑戦していきましょう。予備試験の問題に挑戦するのに必要な知識や参考判例を掲記するので、予習をしてから、過去問に挑戦してみてください。
令和7年の「設問1」と「設問2」は、それぞれ独立した設問です。
【予習事項】(設問1)
【予習判例】(設問1)
【予習事項】(設問2)
- 相殺の抗弁と重複起訴の禁止
【予習判例】(設問2)
- 最判平成3年12月17日(民集45巻9号1435頁【百選6版「35-①」】)
- 最判平成10年6月30日(民集52巻4号1225頁【百選6版「36」】)
- 最判令和2年9月11日(民集74巻6号1693頁【百選6版「35-②」】)
上掲の判例を勉強すれば、「令和7年(設問2)」は解けるはずです。頑張って挑戦してみましょう。
重要なことは、予習をした上で、自分で実際に答案を書いてみることです。答練をした上で、下記の「参考解説レジュメ」に進んでください。
【PDF版は(↓)へスクロール】
【令和7年・予備試験、参考解説レジュメ(設問1)】
(coming soon……)
令和7年9月19日(初版)
令和8年1月8日(補訂版)
令和版「民訴法」初学者用の入門レジュメ(予備試験過去問解説編)
捧 大地
令和7年・予備試験「民訴法(設問2)」参考解説
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【予習事項】
・相殺の抗弁と重複起訴の禁止について
【予習判例】
・最判平成3年12月17日(民集45巻9号1435頁【百選6版「35-①」】)
・最判平成10年6月30日(民集52巻4号1225頁【百選6版「36」】)
・最判令和2年9月11日(民集74巻6号1693頁【百選6版「35-②」】)
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第1 本設問2について
まず、①Xが、本件X債権について、総額3億円の内の一部請求として1億円の本訴を提起し、訴訟係属した(「本訴」)。次に、②Yが、Y債権4億円の全額について、本訴に対する相殺の抗弁に充てるでもなく、4億全額について「反訴」を提起した。これは、Yにおいて、X債権に理由がないと捉えているものと考えられる。そして、Yの反訴提起後、Xとしては、❶「本訴で請求している部分」つまり1億円部分と、❷「本訴で請求していない部分」つまり本件X債権の残部部分2億円の、計3億円を相殺したいと願い、③「反訴」において、本件相殺の抗弁を主張している。
また、想定されるY側の事情として、Xの言によればYの「悪意による」不法行為請求であるため、「悪意による不法行為」により生じた債権を受働債権とする相殺が禁止されている(民法509条1号)ため、Xの本訴の対して、(Y側として)相殺の抗弁ではなく反訴になったに過ぎないのかもしれない。
第2 相殺の抗弁と重複起訴の禁止について 〜基本確認〜
判例(最判平成3年12月17日〔百選6版「35-①」〕)は、「係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である(〔最高裁昭和63年3月15日判決・民集42巻3号170頁〕参照)。すなわち、民訴法二三一条〔142条〕が重複起訴を禁止する理由は、〔❶〕審理の重複による無駄を避けるためと〔❷〕複数の判決において互いに矛盾した既判力ある判断がされるのを防止するためであるが、〔①〕相殺の抗弁が提出された自働債権の存在又は不存在の判断が相殺をもって対抗した額について既判力を有するとされていること(同法一九九条二頃〔114条2項〕)、〔②〕相殺の抗弁の場合にも自働債権の存否について矛盾する判決が生じ法的安定性を害しないようにする必要があるけれども理論上も実際上もこれを防止することが困難であること、等の点を考えると、同法二三一条〔142条〕の趣旨は、〔ⅰ〕同一債権について重複して訴えが係属した場合のみならず、〔ⅱ〕既に係属中の別訴において訴訟物となっている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出する場合にも同様に妥当するものであ」ると判示した。
第3 ❷「X債権のうち本訴で請求されていない部分(2億円部分)」について
1 訴訟法上の債権の分割行使について
最初は、訴訟法上の、債権の分割行使について検討する。
まず、判例(最判昭和37年8月10日(民集16巻8号1720頁))は、「一個の債権の一部であっても、そのことを明示して訴えが提起された場合には、訴訟物となるのは右債権のうち当該一部のみに限られ、その確定判決の既判力も右一部のみについて生じ、残部の債権に及ばない」旨、判示している。
そして、判例(最三小判平成10年6月30日(民集52巻4号1225頁))は、少なくとも「相殺の抗弁に関しては、訴えの提起と異なり、相手方の提訴を契機として防御の手段として提出されるものであり、相手方の訴求する債権と簡易迅速かつ確実な決済を図るという機能を有するものであるから、一個の債権の残部をもって他の債権との相殺を主張することは、債権の発生事由、一部請求がされるに至った経緯、その後の審理経過等にかんがみ、債権の分割行使による相殺の主張が訴訟上の権利の濫用に当たるなど特段の事情の存する場合を除いて、正当な防御権の行使として許容されるものと解すべき」と判示している。
2 本件あてはめ
本件では、Xが、既に1億円を本訴で請求しているものの、それは明示的一部請求としてなされており、訴訟物は別個になっていて、その既判力も残部には及ばない。そして、Xは、X債権の残部については、Yから反訴を提起され、その防御方法として残部によって相殺の抗弁を主張しているものである。
よって、「X債権のうち本訴で請求されていない部分」すなわち2億円部分による相殺の抗弁は適法である。
第4 ❶「本訴で請求されている部分(1億円部分)」の相殺の抗弁について
本訴は、相手方が「口頭弁論をした後」であるので、Yの同意がなければ取り下げることができない(法261条2項)。ただし、おそらくYは、Xの請求に理由がないと感じているはずなので、YとしてもXの請求棄却の判決を得る利益があるため、本訴の取り下げに同意することはないであろう。
そうであると、本訴請求と相殺の抗弁の「請求」があたかも2本立つことになり、判決の矛盾抵触の可能性を防止するという142条の趣旨に反するかのようにも思える。
この点について、Yの「反訴」が「別訴」であれば、Xの❶「本訴で請求されている部分」つまり1億円部分の相殺の抗弁は、142条の類推適用で相殺の抗弁は不適法である。
ところが、本件のYの請求は反訴であるので、「本訴の係属する裁判所」(法146条1項)において、「本訴と併合審理されるので、既判力の矛盾抵触のおそれは小さいし、審理の重複による訴訟不経済も生じないことから、142条が禁止する二重起訴には当たらない[1]」から適法である。
もっとも、笠井正俊先生[2]は、「反訴であるからといって弁論の分離ができないとは直ちにはいえないので、重複起訴禁止に触れないという結論を導くためには、弁論を分離するとそのような問題が生じるような場合には裁判所は弁論の分離をしてはならないと解することが前提となる」と解説される。
1 判例 〜相殺の抗弁と重複起訴の禁止に関するリーディングケース〜
前掲最高裁平成3年判決が引用する最判昭和63年3月15日(民集42巻3号170頁)は、「他方、本件自働債権の性質及び右本案訴訟の経緯等に照らし、この債権の行使のため本案訴訟の追行に併せて本件訴訟での抗弁の提出をも許容しなければ上告人らにとつて酷に失するともいえないことなどに鑑みると・・・」として、訴訟での抗弁の提出を許容しなければ当事者らにとつて酷になる場合には、相殺の抗弁を認めるかのように、判決文に含みを持たせていた。
2 判例 〜弁論の分離が許されないとされた事例〜
判例(最判令和2年9月11日民集74巻6号1693頁)は、「請負契約における注文者の請負代金支払義務と請負人の目的物引渡義務とは対価的牽連関係に立つものであるところ,瑕疵ある目的物の引渡しを受けた注文者が請負人に対して取得する瑕疵修補に代わる損害賠償債権は,上記の法律関係を前提とするものであって,実質的,経済的には,請負代金を減額し,請負契約の当事者が相互に負う義務につきその間に等価関係をもたらす機能を有するものである。しかも,請負人の注文者に対する請負代金債権と注文者の請負人に対する瑕疵修補に代わる損害賠償債権は,同一の原因関係に基づく金銭債権である。このような関係に着目すると,上記両債権は,同時履行の関係にあるとはいえ,相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとはいえず,両債権の間で相殺を認めても,相手方に不利益を与えることはなく,むしろ,相殺による清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない,法律関係を簡明にするものである」とし、「清算的調整を図るべき要請が強いもの」とした。
そして、「これらの本訴と反訴の弁論を分離すると,上記本訴請求債権の存否等に係る判断に矛盾抵触が生ずるおそれがあり,また,審理の重複によって訴訟上の不経済が生ずるため,このようなときには,両者の弁論を分離することは許されないというべきである。そして,本訴及び反訴が併合して審理判断される限り,上記相殺の抗弁について判断をしても,上記のおそれ等はないのであるから,上記相殺の抗弁を主張することは,重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反するものとはいえない」と判示した。
3 本問でのあてはめ
上記のことを前提として、「訴訟での〔相殺の〕抗弁の提出をも許容しなければ当事者らにとつて酷に失する」か否か(前掲最判昭和63年)の判断で結論は決まるであろう。
4 筆者の見解
本問では、「従前から取引のあった」Y株式会社の担当者から「勧誘」を受けてXは本件賃貸用アパートを建築した。そして、Yの本件賃貸借需要の見通しが甘く、それをXに説明しなかった説明義務違反を理由に、Xは不法行為責任を主張している。
そうすると、X債権とY債権は、「同一の原因関係に基づく金銭債権」(前掲最高裁令和2年判決)であるといえる。
そうだとすれば、一方の勧誘を受けて建築したアパート事業に、事業の不採算性という瑕疵があったとして、前掲最高裁令和2年判決事案と同様の利益関係にあるとみることができる。
そうであるとすると、「相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとはいえず,両債権の間で相殺を認めても,相手方に不利益を与えることはなく,むしろ,相殺による清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない,法律関係を簡明にするものである」といえる。
よって、本設問の事案においては、弁論の分離(法152条1項)は許されないものというべきである。弁論の分離が許されないのだから、相殺の抗弁を認めても、判決の矛盾抵触の可能性が生じないので、本件の「本訴で請求している部分」の相殺の抗弁も許される。よって、適法である。
第5 結語
以上を要するに、本件の❷「X債権のうち本訴で請求されていない部分(2億円部分)」も❶「本訴で請求されている部分(1億円部分)」も両方の部分の相殺の抗弁が適法である。
以 上
<あとがき>
本年(令和7年)の出題は、筆者の予想通り相殺の抗弁と重複起訴の禁止からの出題であった。ところが、想定していた「訴え先行・抗弁後行」型、及び「抗弁先行・訴え後行」型の事案類型に着目するタイプの設問ではなかった。
引き続き、この分野は再出題可能性のある分野といえよう。「訴え先行・抗弁後行」型、及び「抗弁先行・訴え後行」型の事案類型に着目するタイプの問題に興味のある方は、渡部美由紀ほか『ゼミナール民事訴訟法』(日本評論社)の第3章冒頭の問題(同書25頁)に挑戦してみてほしい。
草々
[1] 『リーガルクエスト民訴法』536頁〔笠井正俊〕
[2] 『リーガルクエスト民訴法』537頁〔笠井正俊〕
【令和7年・予備試験、参考解説レジュメ(設問2)】
本文で紹介した同分野のお勧め検討問題は、以下の書籍に掲載されています。
『ゼミナール民事訴訟法』
