最高裁昭和56年12月16日大法廷判決
令和7年10月14日
令和版「民訴法」初学者用の入門レジュメ(判例紹介編)
捧 大地
<今回の学習>
【最大判昭和56年12月16日(民集35巻10号1369頁〔百選6版「20」〕)の紹介】
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〜将来給付の訴え・大阪国際空港事件大法廷判決〜
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第1 はじめに
本件大法廷判決には団藤重光裁判官の反対意見が付されており、さらに、その後の同様の事案である横田基地公害訴訟事件判決(最判平成19年5月29日・判時1978号7頁)においても、意見が3:2と分かれている。
このように、「最高裁判所においてもなお相当に考え方が分かれているのが現状であり、今後の判例の動向に注目する必要があ」る[1]。これを踏まえて学習してほしい。
第2 事実概要[2]
1 事案
Xら(原告・控訴人=被控訴人・被上告人)は、大阪国際空港周辺住民であり、空港設置・管理者たる国Y(被告・被控訴人=控訴人・上告人)に対して、航空機騒音による被害を主張して、①夜間の飛行差止請求、②過去の損害賠償請求、及び③将来の損害賠償請求を併合して訴えを提起した。
2 第一審判決
第一審判決は、①請求につき全部棄却、②請求につき一部認容・一部棄却、③請求につき賠償額算定の基礎となるべき事実が未確定であるとして全部棄却の判決をした。
3 原審
原審では、③請求について、権利侵害状態継続が推定され、Xらがあらかじめ請求をする必要があり、将来の不確実性による不利益をXらに帰することは公平の見地から相当でないとして一部認容・一部棄却判決をした。
4 国Yが上告
第3 最高裁判旨
1 法廷多数意見
〔将来の損害の賠償請求に関する判断〕
所論は、要するに、本件においては将来における慰藉料請求権発生の基礎たるべき事実関係の変動が予想されるにもかかわらず、原判決は、右事実関係を現時において確定しうるとし、しかも慰藉料額の算定にあたつてB滑走路供用開始後の事実関係の変動及び将来における民家防音工事等の対策の進展を考慮することなく将来生ずべき損害に対する慰藉料請求を認容したものであり、この点において法令の解釈適用を誤り、審理不尽、理由不備、理由齟齬の違法を犯したものである、というのである。
民訴法二二六条〔現135条〕はあらかじめ請求する必要があることを条件として将来の給付の訴えを許容しているが、同条は、およそ将来に生ずる可能性のある給付請求権のすべてについて前記の要件のもとに将来の給付の訴えを認めたものではなく、主として、いわゆる期限付請求権や条件付請求権のように、〔❶〕既に権利発生の基礎をなす事実上及び法律上の関係が存在し、ただ、これに基づく具体的な給付義務の成立が〔❷〕将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証しうる別の一定の事実の発生にかかつているにすぎず、将来具体的な給付義務が成立したときに改めて訴訟により右請求権成立のすべての要件の存在を立証することを必要としないと考えられるようなものについて、例外として将来の給付の訴えによる請求を可能ならしめたにすぎないものと解される。このような規定の趣旨に照らすと、継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権についても、例えば不動産の不法占有者に対して明渡義務の履行完了までの賃料相当額の損害金の支払を訴求する場合のように、右請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、〔❶‘〕その継続が予測されるとともに、右請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動としては、債務者による占有の廃止、新たな占有権原の取得等のあらかじめ明確に予測しうる事由に限られ、しかも〔❸〕これについては請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止しうるという負担を債務者に課しても格別不当とはいえない点において前記の期限付債権等と同視しうるような場合には、これにつき将来の給付の訴えを許しても格別支障があるとはいえない。しかし、たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であつても、それが現在と同様に不法行為を構成するか否か及び賠償すべき損害の範囲いかん等が流動性をもつ今後の複雑な事実関係の展開とそれらに対する法的評価に左右されるなど、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点においてはじめてこれを認定することができるとともに、その場合における権利の成立要件の具備については当然に債権者においてこれを立証すべく、事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものについては、前記の不動産の継続的不法占有の場合とはとうてい同一に論ずることはできず、かかる将来の損害賠償請求権については、冒頭に説示したとおり、本来例外的にのみ認められる将来の給付の訴えにおける請求権としての適格を有するものとすることはできないと解するのが相当である。
本件についてこれをみるのに、将来の侵害行為が違法性を帯びるか否か及びこれによつて被上告人らの受けるべき損害の有無、程度は、被上告人ら空港周辺住民につき発生する被害を防止、軽減するため今後上告人により実施される諸方策の内容、実施状況、被上告人らのそれぞれにつき生ずべき種々の生活事情の変動等の複雑多様な因子によつて左右されるべき性質のものであり、しかも、これらの損害は、利益衡量上被害者において受忍すべきものとされる限度を超える場合にのみ賠償の対象となるものと解されるのであるから、明確な具体的基準によつて賠償されるべき損害の変動状況を把握することは困難といわなければならないのであつて、このような損害賠償請求権は、それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成立の有無及び内容を判断すべく、かつまた、その成立要件の具備については請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものといわざるをえないのである。したがつて、別紙当事者目録記載の番号1ないし239の被上告人ら(原判決別紙二の第一ないし第四表記載の被上告人らないしその訴訟承継人ら)の損害賠償請求のうち原審口頭弁論終結後に生ずべき損害(この損害の賠償の請求に関する弁護士費用を含む。)の賠償を求める部分は、権利保護の要件を欠くものというべきであつて、原判決が右口頭弁論終結ののちであることが記録上明らかな昭和50年6月1日以降についての上記被上告人らの損害賠償請求を認容したのは、訴訟要件に関する法令の解釈を誤つたものであり、右違法が判決に影響を及ぼすものであることは明らかである。それゆえ、論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中右将来の損害の賠償請求を認容した部分は破棄を免れず、第一審判決中右認容された請求に関する部分はこれを取り消して本訴請求中右請求にかかる訴えを却下すべきである。
よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、四〇七条一項、九六条、八九条、九二条、九三条、九五条に従い、主文のとおり判決する。
2 団藤重光裁判官反対意見
民訴法二二六条〔現135条〕は、「将来ノ給付ヲ求ムル訴ハ予メ其ノ請求ヲ為ス必要アル場合ニ限リ之ヲ提起スルコトヲ得」と規定しており、法文上はあらかじめ請求をする必要性の存在だけを要件として掲げているにすぎないが、民訴法全体の体系の中に位置づけて理解するときは、本条はあくまで例外的なものであつて、解釈上厳格な制約を考えなければならないのは当然である。しかし、本条をどのように解釈するかは、結局は、立法者がとくに本条を設けた趣旨を勘案しながら、既判力の範囲の問題や当事者間の利益の均衡などを考慮して決する以外にないと考えるのである。
おもうに、期限付請求権や条件付請求権などについては、期限の到来や条件の成就を待つまでもなく、あらかじめ訴を提起して債務名義を取得することができるものと解しなければならないことは、かりに本条のような規定がなかつたとしても当然のことではあるまいか。そうだとすれば、本条をとくに設けた趣旨が、単にこのようなばあいについての疑義を避けるためだけであつたとみることはできないであろう。わたくしは、請求権発生の基礎となるべき事実関係が継続的な態様においてすでに存在し、しかも将来にわたつて確実に継続することが認定されるようなばあいには、具体的事案に応じて、前記のような考慮によつて是認される限度で、本条の規定による訴求がみとめられるべきものと考える。
そこで、本件の事案に考察を進める。たとえば土地の工作物の設置・保存につき物理的な瑕疵があり、これによつて他人に継続的に損害が発生しているばあいに(民法717条参照)、その他人は工作物の占有者ないし所有者に対して、すでに発生した損害に対してばかりでなく、その瑕疵が除去されないかぎり将来にわたつて継続して発生するであろう損害に対しても、その賠償を請求することができるものと解しなければならないであろう。これは多数意見の例示する不動産の不法占有のばあいと異なるところはないはずだとおもう。そうして、わたくしは、この理を民法717条のばあいにかぎらず、国家賠償法2条1項に規定する公の営造物の設置・管理の瑕疵によつて他人に損害が生じているばあいにまで推及したいのである。もちろん、民法717条の規定する工作物の設置・保存の瑕疵は、従来、物理的なそれを指すものと解されて来ているのに対して、国家賠償法2条1項に規定する営造物の設置・管理の瑕疵は、営造物を構成する物的施設自体の物理的な欠陥ばかりでなく、上告理由第五点に関する多数意見のいうように、その営造物が供用目的にそつて利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険があるばあいをも含み、本件空港はまさしく後者の観点を加味した意味でのいわゆる欠陥空港とみとめられるのであるから、その設置・管理の瑕疵は複合的な内容のものであつて、これを単純に民法717条の規定する工作物の設置・保存の瑕疵と同視することはできない。
しかし、原判決は、過去の損害賠償に関する被害の認定にあたつても、被上告人ら各自のいわば最小限度のそれを認定しているものと解されるのであつて、そのような最小限度の被害の発生は、特別の事態がおこらないかぎり、将来、当分のあいだ確実に継続するであろうことは、むしろ常識的に是認されうるところである。上告人が上告理由第八点において指摘しているとおり、原判決が将来の給付を命じるについて明確かつ適当な終期を付しなかつたことは原判決の重大な瑕疵といわなければならず、わたくしもこの点で原判決は将来給付の請求に関するかぎり破棄差戻を免れないものと考えるが、もし前記のような最小限度の被害の発生が確実に継続するものとみとめられる期間を控え目にみてその終期を定めるならば、その期間内に特別の事態が生じたばあいに相手方に請求異議の訴によつて救済を求めさせることにしても――その特別の事態の発生によつて賠償額に影響を及ぼすことを立証しなければならないが――これに不当に不利益を課することにはならないというべきであろう。また、かような終期を付することによつて、既判力の範囲についても、疑点を解消することができるものと考える。要するに、わたくしは、本件将来給付の請求を不適法とする多数意見には賛成することができないのである。
なお、念のために付言すれば、多数意見によると、〔原審口頭弁論終結よりのちであることが記録上明らかな〕昭和50年6月1日以降に発生した本件損害賠償請求権については訴が却下されることになり、その中で発生後すでに消滅時効の期間(民法724条)が経過した分については、被上告人らはこの判決確定の日から六箇月以内に改めて訴を提起しなければ消滅時効が完成することになる(同法149条、153条参照)。この点でも、多数意見と私見とでは、実際上、かなり大きな差異が出て来るわけである。
(最高裁昭和56年大法廷判決判旨、以上)
第4 本判決の判例評釈
山田文先生[3]は、「本件団藤反対意見が述べるように、終期を短く見積もり事情の変動を想定し難い期間に限定するならば、請求適格は認められるとの考え方もあり得」ると説明されている。
第5 最判平成19年5月29日、多数意見及び田原睦夫裁判官反対意見
1 事実概要
最判平成19年5月29日(判時1978号7頁・「横田基地公害訴訟事件判決」)は、最高裁昭和56年大法廷判決と同様の騒音公害に対する損害賠償請求の将来給付が問題となった事案である。
2 原審の判断
原審は、口頭弁論終結後原判決言渡しまでの8ヶ月ないし1年間について、口頭弁論終結時と同内容の損害賠償請求を認容した。
3 法廷多数意見
法廷多数意見は、最大判昭和56年判決を引用して、同旨の判断により原判決を破棄した。
4 田原睦夫裁判官反対意見
しかし,「将来の給付の訴えは,『あらかじめその請求をする必要がある場合』(民訴法135条)に認められるところ,それが一般に認められている期限付請求権や条件付請求権以外にどのような請求について認められるか否かは,学説において一般に承認されているように,将来生ずる不確定要素の立証の負担を原,被告いずれに負担させるのが妥当かという利益衡量の問題に尽きるのであって,当該具体的な事案に応じて判断されるべき事項である。その点は継続的不法行為による損害賠償請求権の場合も同様に解すべきであり,昭和56年大法廷判決が定立した基準は狭きに過ぎるものであって見直されるべきである。」
〔中略〕
「私は,多数意見の引用する昭和56年大法廷判決は変更されるべきであり,本件訴訟においては,上記のとおり原判決言渡日の翌日以降についても将来請求が認められて然るべきであると考える」。
同反対意見要旨[4]
「〔最高裁昭和56年〕大法廷判決が定立した基準は現在の状況においては狭きに過ぎるものとし、いかなる範囲で将来の損害賠償請求を認めるかは、〔①〕口頭弁論終結時における被害が将来も継続することが高度の蓋然性をもって認められる期間、〔②〕原告が新たな訴えを提起することに伴う負担の内容、〔③〕将来請求を認容したときに被告が請求異議事由として主張しうる事項とその立証に要する負担の程度、〔④〕そのような負担をさせることに伴う原告被告間の衡平性を考慮したうえで判断すべきもの」としている。
以 上
<あとがき>
渡部美由紀先生執筆の『ゼミナール民事訴訟法』の第2章「将来給付の訴え」(同書13〜23頁)は、継続的不法行為に対する将来の損害賠償請求に対して計4つの事案を設定して検討を求める優れた設問である。
皆さんも、最判昭和63年3月31日(判時1277号122頁)及び最判平成24年12月21日(判時2175号20頁)を学習した上で、将来給付の訴えを認めるためには、どのような解釈により・どのような要件で認められるのか、各自で考えて欲しい。 草々
[1] 秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ』(日本評論社、第2版、2018)112頁
[2] 山田文「判例評釈」百選6版44頁より
[3] 山田文「判例評釈」百選6版45頁
[4] 前掲『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ』112頁より
