最高裁昭和52年7月19日判決




令和7年10月29日

令和版「民訴法」初学者用の入門レジュメ(判例紹介編)

捧 大地

<今回の学習>

【最判昭和52年7月19日(民集31巻4号693頁〔百選6版「A27」〕)の紹介】

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〜訴えの取下げと再訴の禁止〜

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第1 事実の概要[1]

1 前訴

Y1(被告・控訴人)は、X(原告・被控訴人・被上告人)所有の本件土地上に権原なく本件建物(数個に区分けされた平屋建長屋)を建築所有していた。

 Y1は、本件建物のいくつかの区を Y2ら(被告・控訴人・上告人)にそれぞれ賃貸し、Y2らはY1の承諾のもと、それぞれの賃貸部分を増改築していた。Xは、Y1に対し本件建物の収去・本件土地明渡しを求める訴えを提起し、第一審で勝訴した。控訴審において、本件建物はY2らの増改築によって現状が著しく変更され、実在しなくなった旨の主張をY1が行ったため、Xは第一審における請求を維持することが困難であると判断して、本件土地の賃借権不存在確認請求に訴えを変更(交換的変更)したところ、Xは勝訴し、判決は確定した(前訴)。

2 後訴

 その後、Y1がY2らによる増築部分の所有権を主張したため、Xは、Y1に対して、Y2らが増改築した建物の収去・本件土地明渡しを、Y2らに対して、建物退去・土地明渡しを求めて訴えを提起した(後訴)。

 Y1は、前訴での訴えの交換的変更により、当初の建物収去・土地明渡請求に係る訴えは取り下げられたのであるから、再訴禁止の規定(現262条2項)に反している旨の主張をし、Y2らもこれを援用した。

 第一審はXの請求を認容した。控訴審は、Y1・Y2らの控訴を棄却した。

 これに対し、Y2らが上告した。

第2 最高裁判旨

◯ 主 文 ◯

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

◯ 理 由 ◯

上告代理人〔氏名略〕の上告理由について

所論にかんがみ考えるのに、民訴法二三七条二項〔現262条2項〕は、終局判決を得た後に訴を取下げることにより裁判を徒労に帰せしめたことに対する制裁的趣旨の規定であり、同一紛争をむし返して訴訟制度をもてあそぶような不当な事態の生起を防止する目的に出たものにほかならず、旧訴の取下者に対し、取下後に新たな訴の利益又は必要性が生じているにもかかわらず、一律絶対的に司法的救済の道を閉ざすことをまで意図しているものではないと解すべきである。したがつて、同条項にいう「同一ノ訴」とは、単に当事者及び訴訟物を同じくするだけではなく、訴の利益又は必要性の点についても事情を一にする訴を意味し、たとえ新訴が旧訴とその訴訟物を同じくする場合であつても、再訴の提起を正当ならしめる新たな利益又は必要性が存するときは、同条項の規定はその適用がないものと解するのが、相当である。

〔中略〕

前訴控訴審において、Y1が、増改築前の建物について「賃借人ら〔Y2ら〕の増改築によつて現状が著しく変更され、実在しなくなつた旨の主張がされたため、被上告人Xはもはや」本件「建物につきその収去を求めて土地の明渡の請求を維持することは不可能であると誤認判断して、本件土地についての賃借権不存在確認請求に訴の変更をし、X勝訴の判決が確定した」。

このような事実関係に照らすと、本件「建物はY1の所有に属し」、増改築部分は「〔本件〕建物の一部であつて、その賃借人である上告人ら〔Y2ら〕が増築した建物は、民法242条本文の規定により、」従前の「建物に従として附合し、それぞれ・・・Y1の所有に帰したものというべく(最高裁昭和四二年(オ)第五八五号同四三年六月一三日第一小法廷判決・民集二二巻六号一一八三頁参照)、かつ、控訴審においてされた訴の交換的変更の場合には旧訴については訴の取下があつたものと認めるべきであるから(大審院昭和一五年(オ)第一四二三号同一六年三月二六日判決・民集二〇巻六号三六一頁参照)、被上告人XのY1に対する」本件建物「を収去してその敷地の明渡を求める本件第一次請求は、前記別件訴訟〔前訴〕において取下げられた請求とその訴訟物を同一にするものといわなければならない。

しかしながら、原審の確定した前記事実関係のもとにおいては、被上告人Xが建物の附合関係等につき誤認して前記のように訴の変更をしたのには無理からぬところがあつたものというべく、しかも、別件訴訟〔前訴〕の確定後に至つて、Y1が従前の主張を変えて・・・〔本件〕建物は自己の所有であると主張するに至つた以上、被上告人Xとしては、Y1を相手方として、〔本件〕建物を収去してその敷地を明渡すべきことを求めるため本訴〔後訴〕を提起し維持する新たな必要があるものというべきである。

してみれば、本件建物収去土地明渡請求が民訴法二三七条二項〔現262条2項〕により許されないものであるとはいえないとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

以 上


[1] 石橋英典「判例評釈」百選6版249頁