最高裁昭和43年4月24日大法廷判決




令和8年1月5日

令和版「民訴法」初学者用の入門レジュメ(判例紹介編)

捧 大地

<今回の学習>

【最大判昭和43年4月24日(民集22巻4号1043頁〔商法判例百選「30」〕)の紹介】

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〜商法504条但書の趣旨〜

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第1 事実概要[1]

1 事案

  本件ラムアンゴラ毛糸824キロ余りは、もともと訴外甲会社(代表者B)の所有であったが、X会社(原告・被控訴人・上告人)からの借受金担保のため、譲渡担保に供された。その後、甲会社が倒産したため、Xは換価処分を試みたが、金融業を営むXには困難であったことから、甲社代表者Aに売却方依頼した。Aからさらに、同じく甲社代表者Bに連絡し、結局、BとY会社(被告・控訴人・被上告人)代表者Cとの間で本件毛糸を代金40万円余りで譲渡する旨の売買契約が締結され、本件毛糸は引き渡された。A・Bは、本件毛糸がXに譲渡担保に供せられていたことを知っていた。しかし、Bは、Yとの売買契約締結にあたり、Xの代理人であることを表示しなかった。Yは、毛糸類売買を業とし、従前より甲社と毛糸の取引があったが、他方、Xとは何らの取引関係もなかった。

   Xは、自身のとって担保物品の処分行為は附属的商行為であり、本件売買契約にあたって、仮にBがYに本人Xのためにすることを示さなかったとしても、当該契約はX・Y間に成立する(商法504条本文)として、Yに代金支払を求めた。

   Yは、本件売買契約の相手方は甲社であって、甲社に対し別に有していた売掛債権41万円余りとの相殺を主張し、Xへの支払い義務はないとして争った。

2 第一審判決

  第一審は、Xの請求を認容した。

3 原審

   名古屋高裁は、商法504条本文は「相手方において代理人が本人のために行為したことを知りうべかりし場合にかぎ」って適用されるとし、このような解釈は、民法100条但書との関連において商法504条がその特別規定たる意義を失わさせる懸念もあるが、「この規定の趣旨は民法の規定に対し単に立証責任の転換をはかったものにすぎず、・・・代理の効果を否認する相手方において、代理人が本人のために行為したことを知り又は知りうべかりし事情になかったことをみずから立証しなければならないものとするにある」と述べ、本件に商法504条本文は適用できないとして、第一審判決を取り消し、Xの請求を棄却した。

4 上告

  Xが上告した。

第2 最高裁判旨

◯ 主 文 ◯

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

◯ 理 由 ◯

上告代理人〔氏名略〕の上告理由について。

民法は、法律行為の代理について、代理人が本人のためにすることを示して意思表示をしなければ、本人に対しその効力を生じないものとして、いわゆる顕名主義を採用している(同法99条1項)が、商法は、本人のための商行為の代理については、代理人が本人のためにすることを示さなくても、その行為は本人に対して効力を生ずるものとして、顕名主義に対する例外を認めている(同法504条本文)のである。これは、営業主が商業使用人を使用して大量的、継続的取引をするのを通常とする商取引において、いちいち、本人の名を示すことは煩雑であり、取引の敏活を害する虞れがある一方、相手方においても、その取引が営業主のためされたものであることを知つている場合が多い等の事由により、簡易、迅速を期する便宜のために、とくに商行為の代理について認められた例外であると解される。

しかし、この非顕名主義を徹底させるときは、相手方が本人のためにすることを知らなかつた場合に代理人を本人と信じて取引をした相手方に不測の損害を及ぼす虞れがないとはいえず、かような場合の相手方を保護するため、同条〔商法504条〕但書は、相手方は代理人に対して履行の請求をすることを妨げないと規定して、相手方の救済を図り、もつて関係当事者間の利害を妥当に調和させているのである。そして、右但書は善意の相手方を保護しようとする趣旨であるが、自らの過失により本人のためにすることを知らなかつた相手方までも保護する必要はないものというべく、したがつて、かような過失ある相手方は、右但書の相手方に包含しないものと解するのが相当である。

かように、代理人に対して履行の請求をすることを妨げないとしている趣旨は、本人と相手方との間には、すでに同条本文の規定によつて、代理に基づく法律関係が生じているのであるが、相手方において、代理人が本人のためにすることを知らなかつたとき(過失により知らなかつたときを除く)は、相手方保護のため、相手方と代理人との間にも右と同一の法律関係が生ずるものとし、相手方は、その選択に従い、本人との法律関係を否定し、代理人との法律関係を主張することを許容したものと解するのが相当であり、相手方が代理人との法律関係を主張したときは、本人は、もはや相手方に対し、右本人相手方間の法律関係の存在を主張することはできないものと解すべきである。もとより、相手方が代理人に対し同人との法律関係を主張するについては、相手方において、本人のためにすることを知らなかつたことを主張し、立証する責任があり、また、代理人において、相手方が本人のためにすることを過失により知らなかつたことを主張し、立証したときは、代理人はその責任を免れるものと解するのが相当である。

しかるに、原判決が「商法第504条本文が適用されるのは相手方において代理人が本人のために行為したことを知りうべかりし場合にかぎる」旨判示したことは、商法504条の解釈を誤つたものであるが、原判決は「本件について……代理関係の存在を認めうべき事情又は外観が全く存在せず相手方たる控訴人Yにおいて右訴外甲会社代表者Bが被控訴人Xのために行為したことは到底これを知り得べきでなかつた」旨認定しており、被上告人Yにおいて、上告人Xとの取引関係を否定し、本件売買契約の一方の当事者は訴外甲株式会社であつて上告人Xではないとして、右訴外甲会社との法律関係を主張していることは、記録上明らかであるから、上告人Xは、被上告人Yに対し、右訴外甲会社代表者Bの代理行為に基づいて生じた被上告人Yとの間の法律関係を主張することはできないものというべく、右法律関係を前提とする上告人Xの本訴請求は、理由がないといわなければならない。そうすると、上告人Xの本訴請求は排斥を免れず、これと同一の結論を示した原判決は、結局相当であつて、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法三九六条、三八四条二項、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。

以 上


[1] 杉田貴洋「判例評釈」商法判例百選62頁