最高裁昭和43年3月8日判決




令和8年2月3日(追補版)

令和版「民訴法」初学者用の入門レジュメ(判例紹介編)

捧 大地

<今回の学習>

【最判昭和43年3月8日(民集22巻3号551頁〔百選6版「A28」〕)】

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〜主観的予備的併合〜

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第1 事実の概要

1 事案

   X(原告、控訴人、上告人)が、いわゆる譲渡担保の方法によりX所有不動産の登記名義をY2(被告、被控訴人、被上告人)に移転した。XからY2に対して所有権移転登記請求が提訴された。

その訴訟の一審係属中に、Y2がY1(訴訟引受人、被控訴人、被上告人)に当該不動産を譲渡、登記を移転したため、XがY1に訴訟を引き受けさせた。Xが、本件訴訟における請求を、主位的にY1に対する❶移転登記請求、主位請求が認容されなかった場合にY2に対する❷損害賠償請求と変更した。

このため本件訴訟はいわゆる主観的予備的併合となった。

2 高裁の判断

原審は、「XのY2に対する請求は、Y1に対する請求が理由のないことを前提としてなすものであって、いわゆる主観的予備的請求の併合にあたるものであるが、そのような予備的請求の被告とされた者にとつてはその請求の当否についての裁判がなされるか否かは他人間の訴訟の結果いかんによることとなるわけであって、応訴上著しく不安定、不利益な地位に置かれることになり、原告の保護に偏するものであるから、かかる訴訟形式は許されないものと解するのが相当であり、しかも併合された予備的請求はこれを分離するとそれ自体としては条件付訴として不適法なものになるといわねばならない」と判示した。

第2 最高裁判旨

◯ 主 文 ◯

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

◯ 理 由 ◯

上告代理人〔氏名略〕の上告理由第一点について。

〔中略〕

同上告理由第二点および追加上告理由二について。

訴の主観的予備的併合は不適法であつて許されないとする原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法は存しない。所論は、独自の見解に基づき原判決を非難するに帰し、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

〔なお、最高裁が正当とした原審は、(上訴審の)審判の統一に関することには触れていない。〕

(判旨、以上)

第3 最高裁昭和43年判決以後の主観的予備的併合を許容した下級審裁判例

最高裁昭和43年判決後も主観的予備的併合を許容した下級審裁判例が多数ある。否定例もある。

1 主位的被告と予備的被告が同一(同一視できる)である場合

【肯定例1】神戸地判S52.3.29(訟務月報23-3-617)

【肯定例2】大阪高判S54.12.13(判タ414号99頁)

【肯定例3】名古屋地判S60.2.14(判時1173号95頁)

【否定例1】長野地判S50.11.29(判時814号110頁)

2 (1)予備的被告が当初から主位請求の共同被告とされている場合

【肯定例4】東京高判S47.1.27(高民集25-1-29、判時657号53頁)

【肯定例5】東京高判S47.2.17(高民集25-1-83、判時659号57頁)

【肯定例6】東京地判S55.2.8(判タ422号117頁)

【肯定例7】大阪高判S61.3.14(判タ611号89頁)

   (2)主位請求と予備的請求の基礎が同一の場合

【肯定例8】東京地判S54.8.16(判タ402号125頁)

【裁判例1】大阪高判S54.12.13(判タ414号99頁)

1 事案

在日韓国人であるYは、頼母子講[1]〔無尽講〕の講元ないし講親をしていた。Xは、本件講に掛金を計480万円支払ったが、〔配当や貸付等〕なんらの金員の交付等を受けることがなかった。

そこでXが、主位的にY個人に対して、予備的にYを本件講の業務執行人として、講金480万円の返還請求をした。

2 判旨

  「本件講自体に対する講金返還請求は、Y個人に対する請求の予備的請求としてなされており、主観的予備的請求の性質を帯有するものである。一般に主観的予備的請求は、予備的な被告とされる者の訴訟上の地位を著しく不安定、不利益にするものとして広くこれを許容することはできないが(〔最高裁昭和43年判決〕参照)、本件のように同一人に対し、個人責任を追及する請求とともに組合的講の業務執行人としての講自体に対する請求を予備的に併合して請求することを許しても、前示のような被告の訴訟上の地位を不安定、不利益にする弊害は乏しいからこれを許容して差支えないものと考える。」として、本件の訴訟形態を許容した。

【裁判例2】名古屋地判S60.2.14(判時1173号95頁)

1 事案

  X、Y1(15歳9月)、Y2(16歳9月)、を含む7名がシンナー遊びをしていた。その最中に、Xのズボンがシンナーで濡れたことに関して、Y2がこれを尿であると冷やかした。そのことから、Y1がこれを確認するためXのズボンにライターの火を近づけたところ、シンナーに引火してズボンが燃え上がりXが火傷を負った。

  Xが、主位的にY1の親権者Y3、Y2の親権者Y4及びY5の三名に対して民法714条に基づき、予備的にY1、Y2の二名に対して民法709条に基づき、損害賠償請求訴訟を提起した。

2 判旨

「本件は、不法行為をなしたY1、Y2がいずれも未成年であって責任能力を有しないとして、その親権者であるY3、Y4及びY5に対し民法714条に基づく損害賠償請求をなし、さらにY1、Y2がいずれも責任能力を有していたと認定される場合を想定して、予備的に右被告両名に対する民法709条に基づく損害賠償請求を併合したものである。ところで、右Y1・Y2両名はいずれも未成年者であって訴訟無能力者であるため、右被告両名の訴訟行為はすべてその法定代理人であるY3ないしY4、Y5が行うものである。このように副位被告らの訴訟行為を主位被告らが行うのであるから、本件においては、副位被告が著しく不利益を受けるものとはいえず、かつ不安定な地位に置かれてもやむを得ない事情が認められるというべきである」として主観的予備的併合を許容した。

【裁判例3】東京高判S47.2.17(高民集25-1-83、判時659号57頁)

1 事案

  Xが所有する同一土地甲上には、建物乙、建物丙〔建物丙はもともと建物乙に対して増築して建てられた。〕があり、Y1が建物乙及び丙を占有していた。

  Xが、Y1ないしY4を共同被告として、❶建物乙につき、乙の所有者がY2、Y3、Y4であるとして、Y1に建物退去及び土地明渡し、Y2ないしY4に建物収去及び土地明渡しを、❷建物丙につき、Y1が所有者であるとしてY1を被告として建物収去及び土地明渡しを、❸〔追加的請求〕「❷」の請求が認められない場合に予備的に、Y2ないしY4が建物丙の所有者であるとして、建物収去及び土地明渡しを、それぞれ請求した。

2 判旨

  「ところで主観的予備的訴訟が不適法(〔最高裁昭和43年判決〕)とされる理由は、被告が予備的の立場にあるため不当に不安と不利益を強いられるからであると解される。それ故諸般の事情により請求が主観的予備的に併合されても被告が不当に不利益を受けず不安定な立場に置かれてもやむを得ないと認められる場合には右併合は許されると解すべきであり、このように解することは右判例〔最高裁昭和43年判決〕に反しないものと考える。この観点から本件をみるのに、Xは土地所有権に基づき当初からY1とその余のY2、Y3、Y4ら三名を共同被告として建物退去土地明渡請求訴訟を提起するとともにY1に対し右地〔土地甲〕上にある右建物〔乙〕に隣接する別の建物〔丙〕の所有者であるとしてその収去と土地明渡を請求し、その所有者がY1でなくその余のY2、Y3、Y4ら三名と認定されることある場合を予想してY2、Y3、Y4ら三名に対し予備的に右建物の収去による右土地の明渡を併合したものである。このようにして主観的予備的請求を併合されたY2ら三名は、当初から同一土地の明渡という関連する訴訟の共同被告とされているので、右予備的併合による訴訟の被告とされることによつて別訴を提起されるのと比べて特段の不利益を受け不当に不安定な地位に置かれたと認めるべきではない。それ故このような主観的予備的請求は許されると解するのが相当である。」とした。

以 上

<あとがき>

最判昭和43年3月8日以後も、上掲のように主観的予備的併合による訴訟形態を許容した多数の下級審裁判例がある。

 この下級審裁判例に鑑みると、どのような事案類型であれば、主観的予備的併合を許容してもよいといえるのであろうか。各自で考えてみて欲しい。

草々


[1] 互助的な金融組合。組合員が一定の掛金を出し、一定の期日に抽籤または入札によって所定の金額を順次に組合員に融通する組織。新村出編『広辞苑』(岩波書店、第六版、2008)