最高裁昭和27年12月25日判決
令和8年2月12日
令和版「民訴法」初学者用の入門レジュメ(判例紹介編)
捧 大地
<今回の学習>
【最判昭和27年12月25日(民集6巻12号1282頁〔百選2版「43〕)】
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〜処分権主義・訴訟物の探究・その2(金銭債務の「積極的」確認訴訟)〜
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第1 最高裁判旨
◯ 主 文 ◯
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
◯ 理 由 ◯
上告理由第一点について
所論(イ)(ロ)(ハ)の事実は、第一審の訴訟手続に関するものであり、しかもこれらの事実は、単に上告人が控訴状に記載しているだけで、原審においてこれを主張立証した形跡は全然存しない。従て、所論(ニ)において、原審がこれらにつき何等裁判しなかつたことは違法であると主張するけれども仮に第一審の訴訟手続において所論(イ)(ロ)(ハ)のような事実があつたとしても、原審が、かゝる事実を無視したことは何等違法ではなく、論旨は理由がない。
同第二点について
本件につき、被上告人B会が第一審の最初の口頭弁論期日(昭和二四年五月一八日)以来引続きDを代表者として訴訟行為をなして来たことは記録に徴し明白であつて、当時右Dが被上告人を代表すべき権限を有する会長であつたことは、B会副会長作成の証明書(記録一一丁)により十分認め得るのである。論旨は右代表者の登記の有無について云々するが当時施行せられていた弁護士法(昭和八年法律五三号)によれば、弁護士会は元来その設立自体についてもこれを登記すべき規定はなかつたのであり、所論民法四六条二項も弁護士会に適用のないことは明白であるから、当時においては被上告人の代表者について登記の存しないことを理由に、第三者がその代表権を否認し得なかつたことはいうまでもない。尤もその后、弁護士法は昭和二四年法律二〇五号(同年九月一日施行)により改正せられ、改正后の弁護士法によれば弁護士会は設立の登記を必要とし、会長の氏名等は登記の后でなければ第三者に対抗できないと規定されるに至つたのであるが(同法三四条、八八条参照)、しかし民訴においてはおよそ代表者の権限が消滅してもこれを相手方に通知しなければその効力を生じないのであり(民訴五七条一項〔現36条1項〕、五八条〔現37条〕参照)、しかも本件においては被上告人がその代表者の権限消滅の事実を相手方に通知したような形跡は毫も存しないのであるから、本件において前記の如く一旦適法に被上告人の代表者となつたDは、仮にその后右代表権に消長があつたとしても、訴訟上はなんらの影響もなく、上告人において右代表権を否認する何等の利益もない。それ故原判決には所論の如き違法はなく論旨は採用に由なきものである。
同第三点について
訴状には請求の趣旨すなわち、原告が訴訟物につき如何なる範囲で如何なる内容の判決を要求するかを記載しなければならず(民訴二二四条一項〔現134条2項〕、一八六条〔現246条〕、一九九条一項〔現114条1項〕参照)もし訴訟物が金銭債権であれば必ずその金額を一定してこれが範囲を明確にすることを要するのであつて、このことは、それが給付の訴であると確認の訴であるとにより毫も差異はないのである。ところで本件上告人の訴は不法行為を原因とする損害賠償債権存在の確認を求めるものであり、その訴訟物が金銭債権であることは記録上明白である。
しかるに、上告人は本件訴状に右債権の金額を記載せず、その后も遂に訴訟物たる債権の一定金額を表示する措置を採らなかつたのであるから右訴は不適法として却下するの外はなく、これと同趣旨に出でた原判決は正当である。所論は以上と異なる独自の見解に基き原判決を非難するにすぎず、論旨は理由なきものである。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとお
り判決する。
(判旨、以上)
第2 金銭債務の「積極的」・「消極的」確認訴訟について
「金銭債務の不存在確認の訴えにおいては、金額を特定して請求する必要があり(不存在確認の事案ではないが、最判昭和27・12・25民集6巻12号1282頁参照)、ある金額を超える債務の不存在確認を求める場合にも、その上限の金額を明示しなければならない(最判40・9・17民集19巻6号1533頁)。[1]」
しかし、上記第1に掲記した判例は、金銭債権の「積極的」確認訴訟の事案である。
そして、「不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認のように、債務の発生原因事実が明確に他と区別でき、かつ、債権者が主張する債務額が不明確な場合については、金額を示さないでもよいかについては争いがある。[2]」
確認の利益については、「〔❶〕原告の権利またはその法律上の地位に現に危険・不安が存在すること、〔❷〕その不安が被告に起因すること、そして〔❸〕その不安の除去のために求められている確認の対象について判決することが必要かつ適切である場合に、確認の利益は肯定される[3]」とされている。
そして、金銭債権の「消極的」確認訴訟である「金銭債務不存在確認請求訴訟は被告による訴訟外での債権の主張を契機として提起されるものであり、被告は既に審判の対象となるべき債務の数額を知っているのが通常であるから、給付訴訟のように、債務額が訴状において明らかにならなければ、被告は自らの防御活動を決定し得ないということはなく、債務額の明示がない訴状も不適法であるとまではいえない[4]」とされている。
1 確認の利益について
金銭債務の「消極的」確認訴訟に関連して、判例(最高裁平成16年3月25日判決民集58巻3号753頁〔百選6版「26」〕)が存する「生命保険金の支払債務不存在確認の訴え」事案では、原告たる債務者(保険会社)が、全ての社会的事実を訴訟に顕出して、後は裁判所の判断を待つだけということになり、被告たる債権者(保険金請求権者)は、何らかの要件事実の立証活動をしなければならないということはない(準備書面はもちろん必要となる。)。
これに対して、交通事故事案における債務不存在確認の訴えにおいては、前掲判例のような生命保険事案とは、被告(被害者)のおかれる立場が異なってくる。
すなわち、交通事故における債務不存在確認の訴え事案では、被告たる被害者が、応訴を強いられ不法行為の要件事実の主張・立証活動をしなければならないという事態が引き起こされる。
下級審裁判例(東京高判平成4年7月29日・判時1433号56頁)[5]にも、「交通事故による損害賠償債務の不存在確認の訴えが、その必要性につき問題があって確認の利益がないとされる場合があり得ることは否定できない。例えば、被害者の症状が未だ固定していない場合には、損害が更に拡大する余地があるから、被害者の側でもその間は訴訟の提起を差し控える理由ないし利益があり、一方、加害者の側から債務不存在確認の訴えを提起しても、これにより紛争が一挙に解決するとはいえず、このような観点から、その必要性ないし利益が問題とされることはあり得ると考えられる。また、被害者からは何らの請求さえされていない場合、あるいは当事者間で誠意ある解決を目指して協議、折衝が続けられていて、その続行、解決を妨げる何らの事由もない場合等に、加害者の側から一方的に債務不存在確認の訴えを提起したときは、このような訴えに応訴せざるを得ない(多くの場合はその準備がない)被害者の不利益にかんがみ、先制攻撃的に訴えを濫用するものとして確認の必要性ないし利益を否定する立場もあり得るところである」と指摘するものがある。
以 上
[1] 秋山ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ』(日本評論社、第2版、2018)38頁
[2] 上掲:『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ』38頁
[3] 上掲:『コンメンタール民事訴訟法Ⅲ』79頁
[4] 『リーガルクエスト民事訴訟法』(第4版)45頁
[5] 参照:小林秀之「判例評釈」百選5版65頁
